税務調査と聞くと、「調査官が帳簿を見ながら細かく確認するもの」というイメージを持つ方も多いかもしれません。
しかし近年、税務調査のあり方は大きく変わりつつあります。
国税庁では、AIやデータ分析を活用した調査対象の選定が進められており、申告内容の不自然な点や、過去の傾向とのズレがより見つかりやすくなっています。さらに、KSK2の稼働により、税務署側のデータ活用は今後ますます高度化していくと考えられます。
中小企業にとって重要なのは、「税務調査が来てから対応する」のではなく、日頃から説明できる経理体制を整えておくことです。今回は、AI税務調査時代に中小企業経営者が押さえておきたいポイントを、税理士の視点からわかりやすく解説します。
これまでの税務調査は、調査官の経験や過去の調査実績をもとに対象先が選ばれるイメージが強くありました。もちろん、現在も専門的な判断は重要ですが、近年はそこにデータ分析の視点が加わっています。
国税庁では、統計学や機械学習を活用した分析ツールを導入し、申告漏れの可能性が高い納税者を効率的に抽出する取り組みを進めています。つまり、売上や経費、利益率、過去の申告状況などをデータとして分析し、「通常と比べて不自然な動きがないか」を確認する仕組みが強化されているのです。
中小企業にとっては、「うちは小規模だから関係ない」と考えるのは危険です。AIやデータ分析は、会社の規模に関係なく、数字のズレや整合性のなさを見つけることに向いています。これからの税務調査では、日々の経理処理をどれだけ正確に、そして説明できる形で残しているかが、ますます重要になります。
ご提供いただいた国税庁公表資料の内容によると、「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」では、所得税の追徴税額が1,431億円と過去最高を記録しています。また、実地調査1件あたりの追徴税額も241万円となり、前年度の224万円から増加しています。
この背景には、AIやデータ分析を活用することで、申告漏れの可能性が高い対象先をより効率的に選定できるようになっていることがあると考えられます。つまり、以前よりも「見つかる可能性が高いところに調査が入りやすくなっている」ということです。
経営者として注意したいのは、税務調査が単なる偶然ではなく、データに基づいて選ばれる時代になっている点です。売上の計上漏れ、経費の過大計上、消費税や源泉所得税とのズレなどは、今後さらにチェックされやすくなるでしょう。
AI税務調査という言葉を聞くと、大企業や取引規模の大きい会社だけが対象になると思われるかもしれません。しかし、実際には中小企業にも十分関係があります。
中小企業では、経理担当者が少人数であったり、社長自身が経費精算や請求管理を行っていたりするケースも少なくありません。そのため、売上の計上時期がずれたり、役員関連費用の根拠が曖昧になったり、請求書や領収書の保存が不十分になったりすることがあります。
AIは、こうした細かな不整合をデータ上の違和感として検知する可能性があります。大切なのは、完璧な会社を目指すことではなく、「なぜその処理をしたのか」をきちんと説明できる状態にしておくことです。中小企業こそ、日頃の経理ルールづくりが税務調査対策になります。
KSKとは、国税庁が利用している基幹システムのことです。KSK2は、その後継となる新しいシステムとして、税務行政のデジタル化をさらに進めるものとされています。
これまで税務署内で管理されていたさまざまな税務情報が、より効率的に活用されるようになれば、調査対象の選定や申告内容の確認もスピードアップしていくと考えられます。法人税、消費税、所得税、源泉所得税など、複数の税目に関する情報を横断的に確認しやすくなることも想定されます。
中小企業経営者にとって重要なのは、「税務署側の確認能力が上がる」という点です。これまで見過ごされていた小さなズレも、データのつながりによって発見されやすくなる可能性があります。会社側も、紙の資料を探して後から説明するのではなく、日頃からデータで整理しておくことが求められます。
KSK2の稼働により、特に注目すべきなのが「税目横断」のチェックです。法人税だけ、消費税だけを見るのではなく、それぞれの申告内容が整合しているかどうかが確認されやすくなると考えられます。
たとえば、法人税の売上高と消費税の課税売上高に大きなズレがある場合、その理由を説明できるでしょうか。また、役員報酬や給与に関する処理と、源泉所得税の納付状況が一致しているでしょうか。外注費として処理している支払いが、実態として給与に近いと判断されるケースも注意が必要です。
税務調査では、一つの税目だけでなく、複数の税目をまたいで確認されることがあります。今後はその傾向がさらに強まる可能性があります。決算や申告の前には、法人税、消費税、源泉所得税の内容を別々に見るのではなく、全体として矛盾がないかを確認することが大切です。
税務調査の現場では、帳簿や請求書、領収書、契約書などの確認が行われます。これまでは、会社側が紙の資料を探したり、会計事務所に確認したりしながら対応することも多くありました。
しかし、デジタル化が進むことで、調査官が確認できる情報の量やスピードは高まっていくと考えられます。会社側の帳簿や証憑が整理されていない場合、説明に時間がかかり、かえって不信感を持たれる可能性もあります。
反対に、請求書や領収書がデータで保存され、会計データときちんと紐づいていれば、調査時にもスムーズに説明できます。これは税務調査対策だけでなく、経営管理の面でも大きなメリットがあります。月次の数字を早く把握でき、資金繰りや利益管理にも役立つため、デジタル化は守りだけでなく攻めの経営にもつながります。
AI分析で特にチェックされやすいと考えられるのが、売上計上時期のズレです。売上は、税額に直接影響する重要な項目です。そのため、売上日、請求日、入金日、検収日などに不自然なズレがあると、確認対象になりやすくなります。
たとえば、本来は当期に計上すべき売上を翌期に回してしまうと、当期の利益が少なく見えます。意図的でなかったとしても、処理ルールが曖昧なままだと、税務調査で説明を求められる可能性があります。
大切なのは、売上をいつ計上するのか、社内でルールを明確にしておくことです。契約書、納品書、検収書、請求書などの資料を確認し、会計処理の根拠を残しておきましょう。毎月の締め処理で売上の漏れや翌月回しがないかを確認するだけでも、税務リスクを大きく減らすことができます。
中小企業で特に注意したいのが、役員関連費用です。社長や役員が使う車両費、交際費、旅費交通費、通信費、家賃、保険料などは、事業用と私的利用の線引きが問題になりやすい項目です。
たとえば、社用車として経費にしている車が実際にはプライベート利用中心だった場合、経費性を否認される可能性があります。また、自宅兼事務所の家賃や通信費を経費にする場合も、事業で使っている割合を合理的に説明できることが重要です。
AI分析では、同業他社や過年度のデータと比較して、役員関連費用が大きく増えている場合などに違和感として抽出される可能性があります。経費にすること自体が悪いのではありません。問題は、根拠がないことです。按分割合や利用実態を記録し、税務調査で聞かれても説明できる状態にしておきましょう。
外注費や原価も、AI分析で注目されやすい項目です。特に、前年と比べて急に外注費が増えている、売上に対して原価率が大きく変動している、同業他社と比べて利益率が極端に低いといった場合には、確認対象になる可能性があります。
もちろん、事業内容の変化や大型案件の受注、人手不足による外注化など、正当な理由があるケースも多くあります。その場合は、契約書、発注書、請求書、成果物、作業報告書などを整理し、実態を説明できるようにしておくことが大切です。
また、外注費として処理している支払いが、実質的には給与と判断されるケースにも注意が必要です。指揮命令の有無、勤務時間の拘束、道具の負担、報酬の決め方などによって判断が分かれることがあります。外注先との取引実態を整理し、形式だけでなく中身も確認しておきましょう。
税務調査で最も基本となるのが、証憑管理です。帳簿に数字が記載されていても、その裏付けとなる請求書や領収書、契約書などが確認できなければ、説明力は弱くなります。
これからの税務調査では、単に資料を保存しているだけでなく、「必要なときにすぐ出せるか」が重要になります。紙の資料が段ボールに入ったまま、どこに何があるかわからない状態では、調査対応に時間がかかります。結果として、調査官に余計な疑問を持たれることにもなりかねません。
おすすめは、証憑をデータ化し、会計データと紐づけて保存することです。請求書や領収書をスキャンまたは写真で保存し、取引日、取引先、金額、内容がすぐ確認できるようにしておきましょう。日頃から整理しておくことで、税務調査だけでなく、経営判断にも役立ちます。
AI税務調査時代に備えるうえで、クラウド会計の活用は非常に有効です。銀行口座やクレジットカード、請求書発行システムと連携すれば、取引データを自動で取り込みやすくなり、入力ミスや処理漏れを減らせます。
また、電子帳簿保存法への対応も避けて通れません。電子取引で受け取った請求書や領収書などは、ルールに沿って保存する必要があります。単にPDFをフォルダに入れておくだけでは不十分な場合もあるため、検索性や改ざん防止などの要件を意識した管理が必要です。
デジタル化というと難しく感じるかもしれませんが、最初から完璧を目指す必要はありません。まずは請求書、領収書、通帳、クレジットカード明細など、税務調査で確認されやすい資料から整備していきましょう。クラウド会計は、税務調査対策だけでなく、月次決算の早期化にもつながります。
税務調査に強い会社は、決算が終わってから慌てるのではなく、決算前に自己点検を行っています。特にこれからは、法人税、消費税、源泉所得税を横断的に確認する視点が重要です。
たとえば、売上高と消費税の課税売上、役員報酬や給与と源泉所得税の納付状況、外注費と給与の区分、交際費や福利厚生費の内容などは、申告前に確認しておきたい項目です。数字だけでなく、その処理をした理由や根拠資料があるかも見ておく必要があります。
この自己点検は、経営者だけで行うのではなく、経理担当者や税理士と一緒に確認するのがおすすめです。早い段階でズレに気づけば、正しい処理に修正できます。税務調査対策の基本は、調査が来てからの対応ではなく、申告前の確認にあります。
税務調査で慌てない会社には、共通点があります。その一つが、日頃から経理処理のルールが決まっていることです。
たとえば、売上はどの時点で計上するのか、立替経費はどのように精算するのか、交際費に該当するものは何か、役員関連費用の按分はどう決めるのか。こうしたルールが曖昧だと、担当者によって処理が変わり、後から説明しにくくなります。
中小企業では、社長の判断で柔軟に処理しているケースもありますが、税務上は「なぜその処理をしたのか」を説明できることが重要です。社内ルールを簡単なメモやマニュアルにしておくだけでも、処理の一貫性は高まります。属人的な経理から、説明できる経理へ変えていくことが、AI税務調査時代の大切な備えです。
調査に強い会社は、会計データと証憑がきちんと紐づいています。帳簿上の数字を見たときに、その根拠となる請求書や領収書、契約書をすぐ確認できる状態になっているのです。
反対に、帳簿には経費として計上されているのに、領収書が見つからない、内容が思い出せない、誰と何のために使った費用かわからないという状態では、税務調査で説明に苦労します。特に交際費、旅費交通費、外注費、広告宣伝費などは、内容の確認を求められやすい項目です。
クラウド会計や証憑保存システムを活用すれば、取引ごとに資料を添付できるため、確認作業がとても楽になります。税務調査のためだけでなく、経営者が会社のお金の流れを正確に把握するためにも、証憑と会計データの紐づけは重要です。
税務調査で慌てない会社は、税理士との情報共有も早いです。新しい取引を始めたとき、大きな設備投資をしたとき、役員への支払いが発生したとき、外注先との契約形態が変わったときなどに、事前に相談している会社はリスクを抑えやすくなります。
税務上の問題は、処理が終わってからでは修正が難しいこともあります。契約書の内容、請求書の書き方、支払い方法、証憑の残し方などは、最初の段階で整えておくことが大切です。
特にAI税務調査時代では、過去の処理との違いやデータ上の不自然さが目立ちやすくなります。税理士に早めに情報共有しておけば、決算前に確認すべきポイントも明確になります。税務調査対策は、特別なことをするよりも、日頃から相談しやすい体制をつくることが大切です。
AIやデータ分析の活用により、税務調査は「なんとなく選ばれる」ものから、「データ上の違和感をもとに選ばれる」ものへ変わりつつあります。だからこそ、調査が来てから慌てて資料を集めるのではなく、日頃から備えておくことが重要です。
特に、売上計上時期のズレ、役員関連費用の根拠不足、外注費や原価の異常値は、今後も確認されやすいポイントになると考えられます。これらは中小企業でもよく起こりやすい項目です。
大切なのは、「正しい申告をしているから大丈夫」と考えるだけでなく、「正しいことを資料で説明できるか」まで確認することです。税務調査では、数字の正しさだけでなく、その根拠やプロセスも見られます。日頃の経理体制こそが、会社を守る第一歩です。
AI税務調査時代において、中小企業こそデジタル化に取り組むべきです。人手が限られている会社ほど、紙の資料管理や手入力に頼っていると、ミスや確認漏れが起こりやすくなります。
クラウド会計や証憑保存システムを活用すれば、請求書や領収書を整理しやすくなり、会計データとの紐づけもスムーズになります。月次の数字を早く確認できるようになれば、資金繰りや利益管理にも役立ちます。
デジタル化は、税務署に見られるためだけの対応ではありません。会社自身が数字を正しく把握し、経営判断を早くするための仕組みです。最初は一部の業務からで構いません。請求書管理、経費精算、通帳連携など、取り組みやすいところから始めることが大切です。
税務調査への不安は、多くの経営者が抱えています。しかし、不安の多くは「何を見られるかわからない」「資料がそろっているかわからない」「今の処理が正しいかわからない」という状態から生まれます。
そのため、まずは自社の経理処理や証憑管理の状況を確認することが大切です。売上の計上ルール、役員関連費用の根拠、外注費の契約内容、消費税や源泉所得税との整合性などを見直すだけでも、リスクはかなり減らせます。
不安がある場合は、税務調査が来てからではなく、早めに税理士へ相談しましょう。事前に確認しておけば、必要な資料を整えたり、処理方法を見直したりできます。AI税務調査時代に大切なのは、隠すことではなく、正しく処理し、きちんと説明できる会社になることです。
安藤税理士法人では、決算前検討会や月次決算書を通じて、税額予測だけでなく、税務調査で確認されやすいポイントの事前チェック、証憑管理、会計データの整合性確認まで含めたアドバイスを行っています。
AIやデータ分析を活用した税務調査では、売上計上時期のズレ、役員関連費用の根拠不足、外注費・原価の異常値、法人税・消費税・源泉所得税の不整合などが、これまで以上に確認されやすくなると考えられます。
安藤税理士法人の主要サービスには、ANDO式月次決算書、経営計画書の作成支援、単年度利益計画、決算前検討会、決算後ミーティングなどが含まれています。これらを通じて、利益や資金繰りの確認だけでなく、「税務調査で説明できる経理体制づくり」もサポートしています。
「AIを活用した税務調査に、今の経理体制で対応できるか不安」
「売上や外注費、役員関連費用の処理について、税務上問題がないか確認したい」
「電子帳簿保存法や証憑管理を含めて、調査で慌てない体制を整えたい」
このような経営者の方は、早めにご相談ください。
安藤尚志|安藤税理士法人 代表
未来会計・経営計画・収益改善を専門とする税理士として、東海地区の中小企業を支援しています。