パソコンや複合機、工具などの固定資産は、通常「減価償却」として耐用年数に応じて数年に分けて経費にします。そのため、購入した年は経費が一部しか計上されず、利益が大きく見えることがあります。そこで中小企業者等向けに設けられているのが「少額減価償却資産の特例」です。一定の要件のもと、30万円未満の資産であれば“購入して事業に使った年”に一括で経費計上できます。決算対策や投資判断を柔軟にしやすい一方、適用には上限や対象者要件があるため、前提を押さえて使うことが大切です。
令和8年度の税制改正大綱では、少額減価償却資産の特例について、現行の「1つ30万円未満」から「1つ40万円未満」へ基準を引き上げる方針が示されています。物価上昇やIT機器の高性能化で、30万円を少し超える備品が増えている実態を踏まえると、対象範囲が広がるインパクトは小さくありません。これまで30万~40万円の資産は原則として減価償却になり、購入年の費用化が限定されていましたが、改正が実現すれば「購入年に一括経費」と「通常償却」を状況に応じて選びやすくなります。設備投資の判断や決算対策の考え方が変わる可能性があります。
たとえば35万円の工具を購入した場合、現行の30万円基準では特例の対象外となり、原則どおり減価償却で処理します。その結果、購入年は経費が一部にとどまり、利益が出ている年ほど「思ったほど費用にならない」と感じやすい場面があります。仮に基準が40万円未満へ引き上げられれば、35万円のパソコンも特例の対象となり得て、購入して使用した年に35万円全額を経費にする選択肢が生まれます。もちろん一括経費にすれば翌期以降に償却費が残らないため、利益計画や投資計画とセットで考えるのがポイントです。「どちらが得か」は会社の利益見込みで変わります。
一括で経費にできるメリットは、決算期の利益を調整しやすくなる点です。利益が出ている年に設備投資を行い、購入年に費用化できれば、当期利益を圧縮し当期の税負担を軽減できる可能性があります。税金の支払いが抑えられれば、手元資金を厚くしやすく、資金繰りの安心感にもつながります。ただし「税金が消える」わけではなく、翌期以降に計上できる償却費が減る分、将来の利益が増えるケースもあります。したがって、単年度の節税だけでなく、数年単位の利益計画・投資計画・資金繰りを見ながら使い分けることが重要です。金融機関向けの見え方(利益の出方)も意識すると安心です。
今回の実務で特に注意したいのが、施行日前後の「日付管理」です。新基準は(予定では)令和8年4月1日以後に購入し、事業の用に供した資産から適用とされているため、同じ事業年度内でも取得時期によって30万円基準と40万円基準が混在し得ます。発注日ではなく、請求書・納品書・使用開始日などを根拠に判断されるのが一般的です。たとえば3月末に納品されても、実際に使用開始が4月以降ならどう扱うか、逆に4月購入でも使用開始が遅れるとどうか、など確認ポイントが増えます。決算期前後の購入は、証憑と使用開始日の整合性を意識して管理することが大切です。
少額減価償却資産の特例には、1事業年度あたり合計300万円までという上限があります。対象資産を多く購入する会社ほど、どこまでが特例で落とせるかの集計が重要です。また、対象となるのは中小企業者等に限られ、資産の内容や経理処理のルールもあります。金額が基準内でも、対象外の資産だったり、要件を満たさないと通常の減価償却に戻るため注意が必要です。さらに、会計上の処理と税務上の取扱いの整理(勘定科目、固定資産台帳への反映、備品管理)も欠かせません。購入予定が複数ある場合は、「対象・金額・合計・時期」をセットで確認し、決算前にズレが出ないように進めましょう。
基準が40万円未満へ広がると、これまで「30万円を超えるから償却」と割り切っていた資産も、判断が必要になります。おすすめは、設備投資の前に①当期利益の見込み、②翌期以降の利益計画、③年間300万円枠の残り、④購入日・納品日・使用開始日の管理、を事前にチェックすることです。社内では、購入稟議の段階で「特例を使うか/通常償却にするか」を想定し、証憑を揃える運用にしておくと後工程が楽になります。特例は便利ですが、使い方次第で利益の出方が変わり、金融機関への説明が必要になるケースもあります。迷う場合は“購入前のシミュレーション”が最短です。具体的な適用可否は当事務所担当者へご相談ください。