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2026.8.17
財務改善・財務分析
未来のための費用まで削っていませんか? 中小企業が守るべき「未来費用」という考え方

物価高、人件費の上昇、原材料費の高騰など、中小企業を取り巻く経営環境はますます厳しくなっています。
売上が思うように伸びない。利益率が下がってきた。資金繰りにも余裕がなくなってきた。
そんなとき、経営者がまず考えるのが「経費を減らそう」ということではないでしょうか。
もちろん、無駄な経費を見直すことは大切です。しかし、すべての経費を同じように削ってしまうのは危険です。
なぜなら、会社の経費の中には「今の会社を維持するための費用」だけでなく、「未来の会社をつくるための費用」も含まれているからです。
私は、こうした将来の売上や利益、組織づくりにつながる費用を「未来費用」と呼んでいます。
経営が厳しい時期だからこそ、「いくら削るか」だけではなく、「何を削り、何を残すのか」という視点が重要になります。

なぜ今、中小企業に「未来費用」という考え方が必要なのか
物価高・人件費上昇で高まる「経費削減」の圧力
最近の中小企業経営では、さまざまなコストが上昇しています。仕入価格や原材料費だけでなく、電気代、物流費、人件費など、多くの支出が以前より重くなっています。
一方で、コストが上がった分をそのまま販売価格に転嫁できる会社ばかりではありません。売上が大きく増えないまま費用だけが増えれば、当然、利益は圧迫されます。
そこで、「何か削れるものはないか」と経費削減を考えるのは自然なことです。
ただし、ここで注意したいのは、経費削減そのものが経営の目的になってしまうことです。
経費を100万円削れば、短期的には利益が100万円増えるかもしれません。しかし、その100万円が将来の売上を生むための費用だったとしたらどうでしょうか。
目の前の利益を守った代わりに、数年後の売上や成長の機会を失う可能性があります。
だからこそ、経費は金額だけで判断するのではなく、その役割まで見ていく必要があります。

すべての経費を同じように削る危うさ
損益計算書を見ると、人件費、広告宣伝費、地代家賃、支払手数料、研修費など、多くの項目が「費用」として表示されます。
会計上は、どれも利益を減らすものです。
そのため、利益が厳しくなると「費用が多いから減らそう」という話になりがちです。
しかし経営という視点で見ると、すべての費用が同じ役割を持っているわけではありません。
たとえば、ほとんど使っていないサービスの利用料と、若手社員を育てるための研修費では意味が大きく違います。
前者は削っても会社の将来に大きな影響がないかもしれません。一方、後者を削り続ければ、社員の成長機会が減り、数年後の組織力に影響する可能性があります。
大切なのは、「費用だから削る」という考え方から一歩進み、「この費用は会社に何をもたらしているのか」と問い直すことです。
経費削減ではなく、経費の選別が必要なのです。

「今の利益」と「未来の成長」を分けて考える
経営では、今期の利益を確保することが重要です。利益が出なければ会社にお金が残らず、借入金の返済や設備投資も難しくなります。
しかし、今期の利益だけを追いかけてしまうと、未来への投資が後回しになることがあります。
採用を止める。研修をやめる。広告を減らす。新商品開発を延期する。
こうした判断をすれば、短期的には利益が改善するでしょう。
ところが、その影響が現れるのは数年後かもしれません。
必要な人材がいない、新しい顧客が増えていない、新商品が育っていない。その時になって慌てて投資を再開しても、すぐに成果が出るとは限りません。
会社経営では、「今を守ること」と「未来をつくること」の両方が必要です。
だからこそ、今期の利益だけではなく、3年後、5年後の会社を考えながら費用の使い方を決めることが重要です。

「未来費用」とは何か? 会社の明日をつくるお金
採用費――未来の組織をつくるための投資
未来費用の代表例の一つが採用費です。
求人広告、人材紹介会社への手数料、採用サイトの制作費、会社説明会の費用など、採用にはさまざまなお金がかかります。
しかも、採用活動にお金をかけたからといって、すぐに売上が増えるわけではありません。
そのため、業績が厳しくなると「今年は採用を止めよう」と判断しやすい費用でもあります。
しかし、人材は必要になった瞬間に採用できるものではありません。採用してから仕事を覚え、経験を積み、会社の中核を担うまでには時間がかかります。
特に中小企業では、一人の社員が将来の会社を大きく左右することもあります。
今、人手が足りているからといって採用を止め続ければ、数年後に社員の高齢化や退職が重なり、一気に人材不足になる可能性があります。
採用費は、単なる「人を集める経費」ではありません。
数年後の組織をつくるための未来費用として考える必要があります。

教育・広告・開発費――成長の種をまく費用
未来費用は採用費だけではありません。
社員を育てる教育研修費、新しいお客様と出会うための広告宣伝費、新商品や新サービスを生み出すための研究開発費なども、代表的な未来費用です。
これらに共通しているのは、「今使ったお金が、すぐに利益として返ってくるとは限らない」という点です。
研修を受けた翌日に売上が倍になるわけではありません。広告を出してもすぐに受注につながらないこともあります。新商品を開発しても、すべてが成功するとは限りません。
だからこそ、業績が悪くなると削減対象になりやすいのです。
しかし、農業で考えれば、種をまかなければ将来の収穫はありません。
企業経営も同じです。
社員を育て、お客様との接点を増やし、新しい商品やサービスをつくる。その積み重ねが、数年後の売上や利益につながります。
未来費用とは、会社の成長の「種をまくためのお金」と考えるとわかりやすいでしょう。

損益計算書では同じ「費用」でも、経営上の意味は違う
決算書、とくに損益計算書では、会社が使ったお金はさまざまな費用として計上されます。
そして費用が増えれば、その分だけ会計上の利益は減ります。
そのため、経営者が数字だけを見ていると、「この費用を減らせば利益が増える」と考えやすくなります。
会計上は、その考え方自体は間違っていません。
しかし、経営ではその費用が何のために使われたのかまで考える必要があります。
たとえば100万円の支出でも、ほとんど利用していないサービスに払った100万円と、将来の幹部候補を育てるために使った100万円では意味が違います。
損益計算書の上では、どちらも利益を100万円減らす費用です。
しかし、一方は単なる支出かもしれません。もう一方は、将来の会社をつくるための投資的な意味を持っています。
決算書を見るときは、「いくら使ったか」に加えて、「何のために使ったか」という視点を持つことが大切です。

未来費用を削ると、会社に何が起こるのか
採用を止めれば、数年後の人材が不足する
経営が厳しくなったとき、「採用をしばらく止めよう」と判断する会社は少なくありません。
確かに採用を止めれば、求人広告費や紹介手数料だけでなく、入社後の人件費も抑えられます。
短期的な経費削減としては効果が大きいでしょう。
しかし、人材採用には時間軸があります。
今年採用した人が、来年すぐに会社の中心人物になるわけではありません。数年間の経験を積み、仕事を覚え、お客様との関係をつくりながら成長していきます。
もし採用を何年間も止めれば、その年代の社員が会社から抜け落ちてしまいます。
その結果、ベテラン社員はいるものの、その次を担う世代がいないという状況になりかねません。
特に事業承継を考える会社では、人材の空白は大きな問題になります。
採用は、今の人手不足を解消するだけの活動ではありません。
数年後の組織図をつくる活動でもあるのです。

広告を止めれば、未来のお客様との接点が減る
広告宣伝費も、削減しやすい費用の一つです。
広告を止めても、翌日から事業が止まるわけではありません。既存のお客様からの売上があれば、しばらくは問題なく経営できることもあります。
そのため、「広告を出さなくても売上は変わらない」と感じるかもしれません。
しかし、広告や情報発信の役割は、現在のお客様だけではなく、未来のお客様との接点をつくることにあります。
広告を止め、ホームページの更新も減らし、情報発信もしなくなれば、新しく会社を知る人が少しずつ減っていきます。
その影響はすぐには数字に表れません。
半年後、1年後、数年後になって、「問い合わせが減った」「新規顧客が増えない」という形で表れることがあります。
もちろん、効果のない広告は見直すべきです。
ただし、「広告費をゼロにする」のではなく、効果を測定しながら、より成果につながる方法へお金を振り向けることが重要です。

開発を止めれば、「今の商品」だけで戦い続けることになる
現在売れている商品やサービスがあったとしても、それが5年後、10年後も同じように売れ続けるとは限りません。
お客様のニーズは変わり、競合会社も新しい商品を出してきます。技術の進歩によって、これまで必要だった商品やサービスそのものが不要になる可能性もあります。
だからこそ、企業には新しい商品やサービスを考える時間と費用が必要です。
ところが、研究開発費や新規事業に使う費用は、成果が見えにくいため削られやすい傾向があります。
「今の商品が売れているから大丈夫」と開発を止めてしまえば、数年後も同じ商品だけで戦わなければならなくなります。
新しいものを生み出すには時間がかかります。
業績が悪くなってから慌てて新商品をつくろうとしても、すぐには完成しません。
今の主力商品が元気なうちに、次の柱を育てておくことが重要です。
そのために使うお金も、重要な未来費用の一つです。

一方で、見直すべき経費には聖域をつくらない
地代家賃・保険料・賃借料は定期的に見直す
未来費用を守るためには、すべての経費を残せばよいという話ではありません。
むしろ、未来に必要なお金を確保するためにも、それ以外の経費についてはしっかりと見直していく必要があります。
たとえば、地代家賃、保険料、リース料、賃借料、通信費、各種システム利用料などです。
こうした固定的な支出は、一度契約すると毎月自動的に支払われるため、見直す機会が少なくなりがちです。
「昔からこの契約だから」「前任者の時代から使っているから」と、そのままになっているものもあるでしょう。
しかし、現在の会社の規模や働き方に本当に合っているでしょうか。
使っていないスペースはないか。保障が重複している保険はないか。ほとんど利用していないシステムはないか。
半年に一度、あるいは年に一度でも、固定費を棚卸しする習慣を持つことが大切です。

「昔から払っているから」を経費継続の理由にしない
会社の経費を確認していると、「なぜこれを払っているのだろう」と感じる支出が出てくることがあります。
ところが担当者に聞いても、「昔から契約しています」「前の社長のときからです」という答えしか返ってこない。
こうした経費は意外と少なくありません。
金額が月1万円なら、それほど大きく感じないかもしれません。しかし年間では12万円です。同じような支出が10個あれば年間120万円になります。
こうした小さな固定費の積み重ねは、長期的に見ると大きな金額になります。
重要なのは、昔から続いていることと、現在も必要であることは別だということです。
契約を続けるなら、「今の会社に必要だから」という理由が必要です。
一つひとつの経費について、「誰が使っているのか」「どのような効果があるのか」「代替手段はないか」と確認してみるだけでも、削減できる経費が見つかることがあります。

削減の目的は「お金を残すこと」ではなく「未来に振り向けること」
経費削減というと、「できるだけお金を使わないこと」が目的のように思われがちです。
しかし、中小企業にとって本当に大切なのは、ただ現金を残すことではありません。
もちろん、一定の手元資金を確保することは重要です。資金繰りが不安定であれば、会社経営そのものが危険になります。
そのうえで、削減できたお金をどう使うかまで考えることが経営です。
たとえば、不要な固定費を年間300万円減らせたとします。
その300万円をそのまま利益として残すという選択肢もあります。
一方で、その一部を採用、社員教育、営業強化、広告、新商品開発などに振り向ければ、未来の売上をつくる可能性があります。
経費削減はゴールではありません。
会社にとって優先順位の低い支出から、優先順位の高い支出へお金を移すための手段と考えると、経費の見方が大きく変わります。

経営者が決めるべきは「いくら削るか」ではなく「何に使うか」
未来費用をあらかじめ予算として確保する
未来費用を守るためには、「余裕があったら使う」という考え方だけでは不十分です。
利益が出たら採用する。余裕ができたら研修をする。売上が増えたら広告を出す。
このような考え方では、業績が厳しい時期ほど未来費用が後回しになってしまいます。
そこでおすすめしたいのが、未来費用をあらかじめ予算として考えておくことです。
たとえば、「今年は採用活動に○○万円」「社員教育に○○万円」「新商品開発に○○万円」というように、年度の初めに一定の枠を設けます。
もちろん、会社の資金状況によって途中で見直すことは必要です。
しかし、最初から未来費用を予算に組み込んでおけば、「余ったら使う費用」ではなく、「会社の将来のために必要な費用」として扱えるようになります。
未来は、余ったお金だけでつくるものではありません。
経営者が意識して資金を配分することで、初めて未来への投資を継続できます。

未来費用が売上や利益につながっているかを検証する
未来費用は大切ですが、「未来のためだから何でも使ってよい」ということではありません。
未来費用こそ、定期的な検証が必要です。
たとえば広告費なら、「どの広告から問い合わせがあったのか」「一件の顧客を獲得するためにいくらかかったのか」を確認できます。
採用費であれば、「どの採用方法から良い人材を採用できたのか」、研修費であれば、「研修後に仕事の質や生産性がどう変わったのか」を見ていくことができます。
すべてを正確な数字で測ることは難しいかもしれません。
それでも、「何となく続ける」のと、「効果を確認しながら続ける」のでは大きな違いがあります。
未来費用を守るということは、無条件に支出を続けることではありません。
必要な投資は続けながら、より成果が出る使い方へ改善していくことです。
「残すか削るか」だけでなく、「どう使えばより良い未来につながるか」という視点を持ちましょう。

「わが社は未来のためにいくら使ったか」を決算書から考える
決算書を見るとき、多くの経営者は売上高、営業利益、経常利益、現預金残高などを確認するでしょう。
もちろん、どれも重要な数字です。
しかし、もう一つ確認してほしい数字があります。
それが、「わが社は未来のために、いくら使っただろうか」という視点です。
採用費はいくらだったか。教育研修費はいくらだったか。広告宣伝費はどうだったか。新しい商品やサービスのためにどれだけお金を使ったか。
そして、それらは前年と比べて増えたのか、減ったのか。
こうした数字を並べてみると、会社が未来に対してどれくらいお金を振り向けているのかが見えてきます。
利益が出ていても、未来費用が毎年減っているのであれば注意が必要かもしれません。
逆に、未来費用をしっかり確保しながら利益も出せているのであれば、将来への準備を進めながら現在の経営も維持できていると考えられます。
決算書を「過去の結果」だけではなく、「未来への準備」を確認する資料として見てみましょう。

まとめ――厳しい時代ほど、未来の種まで削らない
経費削減と未来への投資を両立させる
経営環境が厳しいとき、経費を見直すことは必要です。
しかし、「経費は少なければ少ないほどよい」という考え方では、会社の成長まで止めてしまう可能性があります。
大切なのは、無駄な支出を削りながら、未来につながる支出はできる限り守ることです。
たとえば、利用していないサービスを解約する一方で、社員教育にはお金を使う。
不要な固定費を減らしながら、新しい顧客を獲得するための広告費は確保する。
こうしたメリハリのある資金配分が重要です。
経費削減と未来への投資は、どちらか一方を選ぶものではありません。
むしろ、不要な経費を減らすからこそ、未来に必要な費用を確保できるとも言えます。
「全部削る」のではなく、「未来に必要なお金を残すために削る」。
この考え方を持つだけでも、経費削減の意味は大きく変わってきます。

「今日を維持する費用」と「明日をつくる費用」を分ける
会社には、今日の事業を維持するために必要な費用があります。
家賃、光熱費、通信費、現在の業務を行うための人件費などです。
一方で、明日の会社をつくるための費用もあります。
採用費、教育研修費、広告宣伝費、研究開発費、新規事業への投資などです。
損益計算書の上では、どちらも「費用」であることに変わりはありません。
しかし、経営上の意味は大きく異なります。
この違いを意識せず、すべてを一律に「削る対象」としてしまうと、気づかないうちに会社の将来性を弱めてしまうことがあります。
経費を見るときには、一つひとつについて考えてみてください。
「これは今日を維持するためのお金なのか。それとも、明日をつくるためのお金なのか」
この問いを持つだけでも、経営判断の質は変わってきます。

未来費用を守ることが、会社の持続的な成長につながる
厳しい経営環境の中では、「今期をどう乗り切るか」がどうしても優先されます。
それは当然です。
会社が存続しなければ、未来を考えることもできません。
しかし、今を守ることだけに集中しすぎると、数年後の会社を支えるものがなくなってしまいます。
人を採用する。社員を育てる。新しいお客様との接点をつくる。商品やサービスを進化させる。
こうした活動は、すぐに利益にはならなくても、会社が未来も存続していくために欠かせません。
だからこそ、業績が厳しいときほど「未来費用」という視点を持ってほしいと思います。
決算書を見るとき、ぜひ一度問いかけてみてください。
「わが社は今年、未来のためにいくら使っただろうか?」
そして経費を削減するときには、もう一つ問いかけてみてください。
「その経費は、本当に削ってよい費用だろうか?」
目の前の利益を守ることも大切です。
しかし、未来の売上や利益の種まで一緒に削ってしまっては、会社の成長は続きません。
何を削り、何を残し、何にお金を使うのか。
その判断こそが、経営者の重要な仕事ではないでしょうか。

安藤尚志|安藤税理士法人 代表
未来会計・経営計画・収益改善を専門とする税理士として、東海地区の中小企業を支援しています。

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